鉛筆を削る

先日、朝日カルチャーの講習時、七宝の釉薬を盛り付けるための竹べら(ホセと言います。)についての話が始まり、ホセを作りたいのだけれど前に先生が下さった竹、どこで売っていますか? と。

あら、百均で売ってる平串ってヤツよ。

それがどこを探しても売っていないんです。取り扱いがなくなっちゃったみたい。

そうか~百均で売ったら足が出ちゃうってことかもね~ スーパーかホームセンターにはあるんじゃないかしら? 100円よりは高いと思うけれど。

で、次の講習時に買い置きが少々あったのでそれを持って行って「自分で削って作る人には差し上げるわよ。これしかないのだからタンスの肥やしにしちゃう人は遠慮してね。」

すると、最近入会した若い人が、どうやって削るんですか? と。

あーそうか~ あなたの世代はナイフで鉛筆を削ったなんていう経験はないものね。怪我をするといけないから削り方を教えてあげるわね。

で、カッターナイフで削り方の講習。すると、ほとんど全員が教えてくださいと周りを囲んだ… え? 皆さんナイフを使って鉛筆を削ったことがないの?

シャープナーですよ~~~ 

え~~~ ナイフで鉛筆を削ったことのある人、手をあげて! というとたった二人…

で、ナイフの持ち方やら、ナイフの方を動かすんじゃないのよ、ナイフはきちんと固定してホセを持った手の方の親指をカッターの背にかけて押しながらホセを手前に引くのよ。などと、一体何の講習にやってきたやら…

竹は鉛筆と違って固いから、カッターの刃は折って新しくしないとね。

え~? カッターの刃って折って新しくするんですか?? 

そうよ~切れなくなったら折って新しい所を使うのよ、折ったことないの? 

ありませ~~ん! げ~~~ でカッターの刃の折り方講習…

びっくりして、帰宅後、シャープナーの歴史を調べてみました。

国産のシャープナー1号は、昭和32年に三菱鉛筆により販売が始まったのだそうです。その後、昭和35年に社会党浅沼稲次郎氏の刺殺事件が起こり、それによって「刃物追放運動」が起きて、鉛筆を削る小型ナイフも「持たせない対象」となったのだそうです。それに乗じたシャープナー業界が、東京・大阪・名古屋の小中学校に2200台のシャープナーを寄贈し、「危ない刃物はやめましょう」というキャンペーンが始まり、ポスターを全国の小中学校や文房具店に貼りだしたのだとか。以来、シャープナーが急速に普及することになったということでした。

ほ~~浅沼稲次郎かぁ、あの事件、子供ながらに覚えているわ。それがきっかけだったなんて、知らなかったわ!

そういえば、私が小学校の5~6年生だったころ、教室にシャープナーが出現して、しばらくは面白がって先を争うようにみんなで使っていたのですが、それを使うとすぐに鉛筆が短くなっちゃう。まだ社会があまり豊かではない時代だったのですから、すぐに短くなっちゃう鉛筆がもったいなくて、珍しさが一段落するとまた皆ナイフに戻ったような覚えがあります。だいたい、シャープナーで削った鉛筆は書き味が良くなかった… いまだに下絵を描くときには10本ほどの鉛筆を奇麗に削ってからというのが、私にとってはなんだか儀式みたいになっています。奇麗に削った鉛筆の滑らかな書き味! 

あの頃はカッターナイフなどと言うものもなくて、「肥後守」。ちょっとすると折り畳み式の剃刀を挟んだようなナイフが出て、それからはもっぱらそのタイプ。「肥後守」から剃刀ナイフに移った時に、刃の厚みに違いからくる刃の入り方の違いにびっくりして、慣れるのに一苦労した覚えがあります。

ですから当然、私よりは10歳くらい若い人たちはもう休み時間にナイフで鉛筆を削ったなどと言う経験はないわけで。そうか~ それでいつまでも私が初めにあげたホセを、減って太くなっちゃってもそのまま使い続けているわけだ。ナイフが使えないんじゃホセの手入れの仕様もない…

靴ひもの代わりに靴がマジックテープ式になって、子供が紐をうまく結べなくなったと言われたのがいつ頃だったか?

そういうことの積み重ねで、やっぱり人は不器用になる? それって、進歩なのか退歩なのか… 何やら考えさせられた事柄ではありました。