マルと散歩

6月の終わり頃だったか、マルが怪我をした。相手は野良猫、大人になりかけのオス猫である。まぁ、元はと言えば私が悪い。生来の猫好きだから、猫の出入り口から入ってくる野良猫がマルのえさを盗んでも、まぁ、仕方がない、相手も食べなくちゃ死んじゃうものね、と見てみぬ振りをしていたことが原因だもの。それに、これまで出入りしていた野良たちは、決してマルに喧嘩を売ったりはしなかったし、テーブルの上のものをあさったりもしなかったのだ。猫なりに一飯の恩義を感じているのかしらと高を括って勝手にさせていたわけだけれど…
今度のヤツはちょっと違った。夜中にテーブルの上の食パンの袋をズタズタに裂いてパンを食い散らかしたり(それも買ったばかりの食パンである!)と、まことに行儀が悪かったし挙句の果てにマルの尻に噛み付いた! こりゃ、許せん! で、猫の出入り口をふさいでお出入り禁止措置を取ったのだ。それから半月。野良の姿は見えなくなった。実入りがない場所を見限って河岸を変えたのだろう。
それから毎日、時間を決めて玄関を開けて、マルを外に出すようにしたのだが、やっぱりトラウマになったのかしら、一向に外に出ようとはしなくなった。無理もない、マルはもう10歳を超えていて。要するにバアサンになりかけ、人間で言えば60くらいにはなるわけで、いわば、バアサンが17,8のヤンキー少年に手ひどく因縁をつけられたようなもんだ… 怖かっただろうし、すっかり自信喪失したのだろう。
毎日家の中に閉じこもっている。何とかしなくっちゃ… と、これは親バカ。で、毎朝、マルと散歩をするようにした。と言っても、町内の外れまでの坂道をてっぺんまで行って帰ってくるだけだけれど。
「マルちゃん、お散歩!」と言うと飛び出してきて一緒に歩き始める。と言ってもまぁ、猫の散歩だから気まま極まりない、通り沿いの家のガレージを覗いたり、茂みに入り込んだり、ゴロゴロしたりと好き勝手にやっている。私がどんどん離れるとニャァニャァ鳴きまくって、戻ってくるのを待っていたりするわけで、ほんのちょっとの坂道ながら、私は行きつ戻りつでそれなり運動になる。先を歩いているマルのお尻には、噛み付かれた跡のハゲが見える。
今朝も6時に散歩に出かけた。途中、一軒、猫のいる家があり、そこの猫が外に出ていたりするから、みーこさん、ゴメンね、ちょっと通りすがりなのだから勘弁してよねと声をかけ、それはそれ、相手も飼い猫だからおっとりしたものである。
緑の中の早朝の風は気持ちがいい。今日も暑くなるだろうなぁ。