かくも長き不在

本日は日曜日。ということで、まぁ、ゆっくりと映画でも見ようかとAMAZONプライムビデオを探したけれど、あまり食指の動くものは見当たらず、それならギャオで…

で、見つけたのは「かくも長き不在」です。作られたのは1960年とありますから、封切りを見るには子供過ぎます。20代の頃、多分あの頃はやりの「名画座」のようなところで見たのだと思います。アンリ・コルピ監督作品で脚本がマルグリット・デュラス。あの頃、私はデュラス狂いでしたたっけ。

あらすじ:パリのカフェの女主人テレーズには16年前、ナチのゲシュタポに連行されてそれきり行方不明になってしまった夫がいる。その夫とよく似た浮浪者が毎日テレーズの店の前をオペラを口ずさみながら通るようになったことから始まります。行方不明の夫ではないのか? その浮浪者は記憶喪失でした。何しろ16年間という「かくも長き不在」の果てですからテレーズにも夫であるのか否かの確信が持てません。で、その男の記憶を呼び覚ますべく、家に呼んで夫の好きだったオペラを聞かせたり、食事をふるまったりするのですが、男の記憶は一向戻らないのです。食事の後、テレーズと男はダンスをします。多分、昔の思い出にある曲だったのかも… その時男の頭に手をまわしたテレーズの指先は、男の後頭部の大きな傷跡に触れます。ゲシュタポによってなされた外科手術の傷痕… この場面はテレーズの絶望を物語って有名な場面ですが、私はそれよりなにより、帰ってゆく男の後ろ姿にテレーズが「アルベール!」と夫の名前で呼びかけるシーン。テレーズを気遣って店の外で様子をうかがっていたカフェの常連たちも一斉に「アルベール!」と大声で呼びかけます。すると男はおびえた表情で立ち止まり、両手をそろそろと上にあげるのです。そのシーンに不覚にも涙が出てしまいました。色濃く刻み込まれた恐怖の持つ圧倒的に鮮明な記憶… このシーンは戦争そのものを語らずして戦争の悲惨さを語った傑作と評される所以なのでしょう。

派手な展開や声高な主張に満ちた最近の映画を見慣れている方にはちょっと淡々とし過ぎていて「かったるい」かもしれませんけれどね。

私は久しぶりにのめり込んでみた映画にくたびれましたけれど。