断念しました。

今年の日本伝統工芸展の出品、断念しました。今年はちょっと力を入れてスタイルの変更を試みて、試作も9枚ほど作り、自分でも楽しみにしていたのですが…

断念の理由は素地の板厚です。下焼きを済ませて冷めたところで持ち上げるのに、いつも歪み止めを兼ねて1㎝の幅を持たせている釉止めに手を触れたらグニャッと曲がりました。え?と思ってノギスで板厚を測ってみると0.4mmか0.5mmか…

今まで30年以上この仕事をしてきていますけれど、常に板厚は0.8mm、扱ったことのない板厚です。勿論歪み止めなんかこの板厚ではクソの役にも立ちません。焼成のたびに口のゆがみを直しつつの作業でした。その段階で、これは仕上がらないかもしれないなと、覚悟は決めたのですが、それでも未練がましく2番差までやってみました。でも結局のところ、こりゃどうにもならないわと断念したのが先週のことです。

0.4だの0.5だのという板厚はアクセサリーの素地の厚さですもの、それを直径15センチ、高さ15センチの水指の素地に? 蓋の方はちゃんと0.8mm厚の板を使っているのに!

さぁ、そこですっかり悩んでしまいました。30年以上に渡って私の素地を作ってくださっていた先代さんが亡くなられたのは一昨年のことです。今は息子さんが後を継がれてやっているのだけれど、何で突然にこの板厚になってしまったのか?

0.8mmの板を15センチの高さまで絞り上げる力量がないのか、あるいは面倒なので絞る回数を少なく済ませるために板厚を薄くしたのか? どっちにせよこれでは安心して素地を頼めません。

生徒さんでやはり日本伝統工芸展を目指して蓋物を作っている人がいるのですが、彼女も似たようなトラブル続きで、板厚を測ってみると0.6mmでした。私のよりちょっと板厚が厚い分だけ何とかごまかし得るかも… 直径が私のより少し大きくその分立ち上がりは11㎝です。まだ絞りやすいと見て少し板厚を厚くしたというところでしょうか?

「これ以上何とかしようと思わずに研磨で調整しましょう。焼成回数が増えると他のトラブルも出てくるかもしれないし。」と、当分彼女の研磨に付き合うことといたしました。何とか仕上がるといいけれど。

心配して電話したところ、yuuちゃんは、今年は合子で蓋と身とに分かれますので立ち上がりは浅いわけで、ちゃんと板厚はあったようです。それにはほっとしました。

私は、生徒さんのことも含めて今後のことがありますから、0.8mmの板厚でもう一つ同じ素地を作ってもらうように手紙を書くつもりです。その素地を見て今後の対応を考えなくっちゃ。先代さんには随分お世話にもなったし、教えていただくことも多かったのだからそう軽々に他に鞍替えするわけにもいかないなぁ、と。やっぱり七宝の素地には必要不可欠な板厚があるのだという所をわかっていただかないと困るのです。その手紙を書くのに四苦八苦しています。お互い感情的になってしまってもいいことはありませんものね。冷静に伝えるべきところを丁寧に伝えるためには言葉を選ばないと。どっちみち来年の作品の素地ですから、時間をかけて言葉を選びつつ、です。これもまた作品作りよりも神経使いますわ…