葉室麟 「恋しぐれ」

私は時代小説が大好きです。多分私自身の精神構造が古めかしいからだと思います。藤沢周平池波正太郎北原亜以子と、お気に入りの作家たちが次々と亡くなり、さて、次は誰を読もうか・・・ 司馬遼太郎はちょっと苦手だし・・・ 3冊ほど読んでみましたが、どうも受け付けない。
で、最近知り合った知人に勧められたのが葉室麟でした。勧められたのは8月頃だったでしょうか。万事にエンジンのかかりの悪い私は、それでもグズグズと手に取らずにいたのですが・・・
昨日、所用があって上京する折、新幹線の中で何か読む本をと思い、駅の書店に立ち寄ったところ、葉室麟の「恋しぐれ」を見つけました。本当はその友人に勧められた「月神」をと思って探したのですが、それは置いてありませんでしたので、まぁ、これでもいいか、と。
葉室麟と言う作家は名前を知っているだけで手にするのは初めてです。題名からして、もしも甘ったるい恋物語だったりしたらちょっとね・・・と案じていたのですが、とんでもない、引き込まれてしまい、所用の合間の休憩に入った茶店でも読みふけってしまいました。
与謝蕪村と、その周りに集まる画家や文人俳人たちのそれぞれの恋の物語です。けれど、いずれも初老に差し掛かり、それぞれのこれまでの人生の紆余曲折を深く心に抱えて、若者のように己中心に感情に任せて突っ走ることの出来ない恋・・・ なかなか含蓄のある作品でした。
やはり、年を重ねると己の感情にのみ走るには、あまりにいろいろなことが見えすぎるのですよね。
「わかっとるのや、この年になって女に想いをかけるやなんて無惨なことやいうことはな。」 この蕪村の言葉には胸を衝かれました。
所々にちりばめられた俳句が、語れない様々な思いをくっきりと浮かび上がらせて、見事でした。十七文字の裏側に広がり、その行間に秘められたもののとてつもない重さ・・・
「男の人の晩年の恋のあり方、いや、恋というよりはいのちのあり方を自分に引き比べて書いてみたかったんです。」と作者は語っているとか。まぁ、お若くてまだまだ元気な方には分からない世界でしょうけれど。
しばらく葉室麟を追いかけてみようと思います。