兄とチョコレート

バレンタインデーも近づいているせいか、チョコレートの宣伝が溢れています。で、子供の頃の兄とチョコレートにまつわる話をひとつ。
私の母は父の元に後妻で入った人でしたから、私には腹違いの兄姉がおりました。まぁ、いわゆる「恥かきっ子」として忘れた頃に出来たのが私ですから、兄とは一回り以上も年が離れていて、それまでの末っ子としての兄の立場を私が奪ったわけです。
私が3歳の頃だったと思うのですが、長姉が亡くなりました。結核だったそうです。勿論病気が病気だったため、近寄ることは禁じられており姉と私は言葉を交わしたこともありません。日当たりの良い四畳半の部屋で、窓の方に顔を向けて寝ていた姉の後姿しか記憶していません。その姉のお葬式の折、お坊様が鳴らすオリンの音がチーンと響くたびに「電話!」と叫びだす私に困り抜いたのでしょう、兄が私の子守を仰せつかって二人で別室で遊んでおりました。
その時、弔問のお客様が「これは英子ちゃんに。」と大きなチョコレートの箱を持ってきてくださって・・・
兄もその頃は高校生でしたから、まだ食べたい盛り。私が生まれるまでは末っ子の特権で何でも自分のものだったのでしょうから、やっぱり悔しかったのかも。かと言って、「英子ちゃんに。」と貰ったものを自分で開けるわけにも行かず、ついに私をけしかける戦法に打って出たようでした。
「英子、これ、開けようか?」
「うん!!」
明けた箱の中には青やら赤やらの銀紙に包まれたチョコレートがぎっしりと並んでおりましたっけ。
「オマエ、一つな。オレ、一つな。」と言いながら、兄は私と共に次々とチョコレートに手を出し、私も与えられるままに食べ続け・・・ 三歳児ですからねぇ、結末はどうなったか・・・ 結局の所、吐くわ、下すわ、ついでに熱を出すわと大騒ぎ。兄は随分と怒られたのでしょうけれど、それは記憶にありません。
以後、私は中学生になるまで、チョコレートは見るだけで気持ちが悪くなって、食べることが出来ませんでした。今は平気で食べますけどね。でも、銀紙に包まれた、中にクリームが入っているようなのは今でもちょい苦手かも。
その兄も亡くなって随分になります。とても可愛がってもらいましたっけ。化学が得意だった彼は、学校の実験室からくすねてきた火薬を調合して花火を作ってくれたり、捕まえてきたカマキリの解剖をして見せてくれたり、あ、赤ん坊の時にはマンホールに入れてくれたりもしたそうです〜〜 これも記憶にはありませんが、子供の頃にはよく穴に落ちる夢を見ていましたから、トラウマだったかも。男の子の可愛がり方だったのでしょうね。なにやら懐かしく思い出します。