祈る

昨日の朝、催促がましいヒメに急き立てられて散歩に出たのは6時前の、ようやく明るくなったころのこと。言いなり地蔵さんの祠で、お線香をあげて毎日そこそこ平穏に暮らしていることのお礼を。ヒメはその間、私の後ろにぼ~~っと座り込んでいたのだけれど、そのうちにトコトコと祠の裏に広がる農業用水池の方へ探検に出かける。

「あらら、遠くに行っちゃいやよ!」と声をかけながらわたしも用水池の方へ行ってみるのだが、フェンスで囲まれていて、ヒメのようにフェンスの下からもぐりこむわけにはいかないから、そこで見守っていた。

するとその時、会社員と思われる姿の50がらみの男性がお参りに現れて… ご出勤前のお参りかしら? しばらくすると、ヒメの様子を窺いながらの私の横眼に、祠の前に額づいて、というよりも膝をついて深々と土下座して一心に祈っているその男性の姿が飛び込んできた。

あらら、よほどの深刻な願い事があるのかしら? その姿に万策尽き果てたような気配を感じ、見てはいけないものを垣間見てしまったような気がして… 何やらわからないまでもちょっと心が痛んでしまった… 考えすぎであることを祈りつつ、である。

言いなり地蔵さんにはいろんな人がやって来る。大半は朝の散歩がてらのようだが、中には原因の分からない病気で長期入院している息子さんの平癒願いに来たと問わず語りに涙ぐみつつ話し出したお年寄りと出会ったこともあるし、何かしらの深刻な状況を抱えてくる方もいらっしゃるだろう。

祈りの形も内容も口には出さなくても人それぞれなのだろうし。

そんなことを考えているうちに、フェンスをかいくぐって戻って来たヒメが、私の顔を見上げてにゃぁとないている。ありがたいことに我が家は平穏。さて、ヒメちゃん、帰ろうか?